◯ 声が歳をとるという事は
・支えが甘くなって、大きなビブラートになってしまう。
・声帯の反応が悪くなって、音運び、言葉運びがもたもたする。
・全部の文字を同じ質量で歌うこと。(日本語で歌う場合)
・ピアノ(小さい音)が響かなくなるので全部をがっつり歌う。
・からだの筋肉量不足による支え不足。喉に頼った声。
◯長く歌っていくには
・高く上げる音をすっと抜く技術が必要。全体の質量のコントロール。質量を下げる。
・身体の筋力を保持すること。
以上は数年前にある声楽講習会を聴講している時に感じたままに書き留めたことです。
私もいい歳になり、いつまで歌っていられるか?などと思いが巡ります。 声帯は壊れたら買い換えられる楽器と違って、替えのない世界一貴重な楽器です。 不本意ながら残りの人生の方が少なくなってきた今、 後何年生きられるか?後何年歌えるか?すごく気になるところです。 新聞のお悔やみ欄を見つめつつ。
日本の医学を持ってすれば、余命がどの位か分かったりするのでしょうが、 後どの位歌えるかは、どれだけ上手に声帯を使っているかにかかってきます。 つまり、正しい発声で歌うことが出来るかどうかです。
30歳を過ぎた頃、 今の歌い方では50歳までにはちゃんと歌えなくなると感じ、 発声を勉強し直しました。 若いということは、素晴らしい。 正しい発声でなくても歌えてしまうのです。 高い声も出せるのです。 ところが、どう抵抗しても歳はとる。 若さがなくなった時に出来ていたことが出来なくなることは、 多かれ少なかれ皆経験しているでしょう。 そこで、発声の専門の先生、オリヴェラ・ミリヤコヴィッチ先生に指導を請い、 5〜6年かけて発声を直しました。 教員をしながらでなければ5年も6年もかからなかったかもしれませんが、 とりあえず今もって歌え、 コンクールで戦える歌が歌えるのは、 あきらかに、その成果です。
日本では歌の先生と発声の先生とを分けて勉強する習慣はあまりないでしょうが、 声が出ての曲作りです。 ところが多くの人は声作りよりも曲作りに専念してしまいます。 先程話したエディット・マティス先生は歌の先生。 ウイーン音楽大学で、3年間発声のクラスを優秀な成績で終わらないと見てもらえないという先生でした。 私は草津音楽アカデミーで知り合えましたが、 その後も運良く縁あって、 先生が日本に来る時にレッスンしていただいています。
【日々の発声練習】
(1) 鼻腔や声帯の準備運動
頑張らないハミングからスタート。この頑張らないとは声量、音域共にです。自分の出
しやすい音域で行います。ただし鼻腔に響かせることが大切。鼻歌と思えばいいかもしれ
ません。発声練習はつまらないからついつい怠りがちです。私も若い頃はろくにしないで
曲を歌いながらしてしまえ!なんて思っていました。大きな間違いです。ピアニストさん
にはハノンが必要なように、歌手にもウォーミングアップ、基礎練習は必要です。
なんのために?
もちろん声帯を守るため、長く歌うためです。また声帯ポリープや声帯結節のようなトラ
ブルを起こさないためです。声帯はどこにも売っていません。移植もできません。
(2) ロングトーン
呼吸をコントロールするためです。歌を歌っていて息が続かない、長いフレーズが続か
ない・・なんて誰もが悩むところかもしれません。多くの場合、ブレスをした後の歌い出
しで、息の7割、8割を使ってしまうからです。なので、目一杯息を吸っても8拍、16拍の
間、大きくなったり小さくなったりせず、同じ息量で発声します。その時にビブラートが
かからないように注意。厳密に言えば、全く無いわけでは無いのですが、聴いてわかるよ
うなビブラートはかけません。ビブラートがどうしてもかかってしまう場合、まずは体の
使い方を覚えます。不必要な力を抜くこと、横隔膜の支えを鍛えることが必要になりま
す。吹奏楽の経験のある人は毎日毎日繰り返しロングトーンの練習をしたと思います。
歌も吹奏楽器も同じです。
歌は呼吸のコントロール命です。
(3) 母音の響きを整える練習
最終的には腹話術のように、口を薄く開けただけで 母音の全てがクリアに歌えること
です。小学校の音楽室や一年生の教室のあるような大口を開けてア イ ウ エ オ では
ありません。大切なのは口の中が空くこと?開くこと?です。口の中でどこを響くポイ
ントとするかです。それによって、日本語でも、ドイツ語でもいわゆる滑舌良く、きれ
いでわかりやすい発音で歌えるようになります。
では私の練習ですが、母音2つの組み合わせで、決まった音形で繰り返し練習します。
母音5個の組み合わせですから20通りです。口の中のポイント移動が瞬時にできないと歌
にはなりません。これができれば発音に関しては半分クリアです。あと半分は子音の処理
です。子音についてはそのうちに。
(4) 跳躍の練習
曲の中にはオクターブを超えるような跳躍もあります。勢いに任せて持ち上げたり、
ずり上がるように持ち上げるのでは美しくありません。もちろんそういう支持の時は必
要ですが、多くの場合、リズムの流れを崩さないようにさりげなくが目標です。
私の場合、CーGーCーGーC と オクターブでします。ここで注意することは、オク
ターブ上げる時に力で押し上げないこと、無理な音域はしないことです。テンポはゆっ
くりから始め徐々に速くしていきます。感覚としては、ゆっくりな四分音符、そして八
分音符くらいに考えてください。ここでも体( 上半身 ) と声帯周りの筋肉は常にリラック
スが必要です。簡単に言えば、頑張らない!です。
(5) コロラトゥーラの練習
これは必要な人とそうで無い人がいます。どんな歌を歌っていきたいかです。バロッ
クの曲や、ロッシーニ 、ドニゼッティーなどを歌いたければ練習が必要です。
私の場合、リュートゲンというエチュードを使います。20曲あります。オペラを中心に
勉強したい人はサルバトーレ・マルケージというのもいいかもしれません。最初から16分
音符の連続ができるわけはありません。また、できるようになったからといって、
ちょっとさぼっているとすぐにできなくなります。また残念ながら加齢による自然な衰え
で声帯や周りの筋肉の俊敏性は失われていきます。なので、繰り返し繰り返し、エンドレ
スで練習が必要です。辞めるのは歌うことを辞めるとき!くらいの覚悟が必要です。私は
現在5周目、本はすでに表紙が取れボロボロです。練習にはメトロノームが必需品で、正
確に記録を残して計画的に行なっています。
以上を行うと、軽く1時間ほどかかります。もう気分はアスリートです。 実際には日々の生活や仕事に追われ、曲の勉強にも時間がかかるので、毎日全部という わけにはいきませんが、部分的にでも続けることが大切です。
【ボランティア活動】
といっても、わたしには、水や瓦礫を片付ける体力はありません。
わたしに出来ることと言ったらやっぱり歌うこと。
過去、介護施設や、病院などで何度か歌わせていただきました。
時には自分の電子ピアノを担いで。もちろんオペラなんて歌いません。
童謡、唱歌を中心に。クリスマス時期にはクリスマスソングや賛美歌。
そしてディズニーやアニメソング。時には美空ひばりや一青窈。
舞台では歌えないようなゆる〜い曲を歌うのも、すごく楽しいことです。
しかし、この童謡、唱歌が意外と発声を整えてくれます。
幼児の前でベルカントで歌ったりはしないでしょう。
ここで必要なのはナチュラルな声です。
明るくクリアな響きは聴く人が心地よいと感じることができます。
クラッシックでも基本となる発声です。
最近では、大学病院で癌患者さんたちの集まりの会でコーラス指導。
辛い治療をしながら参加する人たち。
年に1人2人、人生を卒業してしまう人もいます。
それでも皆さんとても前向きで、明るくコーラスを楽しんでいます。
もちろん、楽譜は読めません。
でもそんなことは問題ではないのです。
生きることを楽しんでいるのです。
そんな会に参加させてもらったこと、本当に貴重な時間を頂きました。
新型コロナウイルスのため、中断せざるおえなくなってしまっていますが、
どうぞ皆さんそれぞれに歌を楽しんでください。
歌はいつでもどこでも歌えます。
なんの道具も要りません。( 今は人前でというわけにはいきませんが)
コマーシャルやドラマのバックに音楽が流れなかったらとても不自然です。
また入学、卒業、結婚、誕生日、そして葬儀。
人生の節目には必ずと言っていいほど音楽が関わってきます。